1983年、横浜ゴムはPRGR(プロギア)ブランドのゴルフ用品事業を開始した。当時ゴルフは急速に人気スポーツになりつつあったが、ゴルフ用品業界は厳しい競争が続いていた。後発メーカーとして参入を果たすには明確な特色が必要と考えたPRGRは、ヘッドスピード理論という科学に基づいたゴルフクラブ作りを提唱した。以来、番手ごとに設計を変えたアイアン、打ちやすい長尺ドライバー、やさしく打てるロングアイアン、クラウンをたわませて飛ばすドライバーなど、業界の常識を覆す数々のヒット商品を世に送り出してきた。
横浜ゴムは昨年10月13日に創立100周年を迎えた。この機会を捉え、当社の歴史的エポックとなった事業、製品などを紹介する。
【新規事業を計画、ゴルフ用品に的を絞る】
1980年代前半、日本のタイヤ産業は世界的な同時不況のもとで低成長期へ移行、加えてラジアル化によるタイヤ長寿命化で需要が減退し厳しい事業環境にあった。こうした状況を打破すべく、横浜ゴムは1983年1月にFB(フューチャービジネス)開発室を設立し、タイヤ以外の新規事業の開拓に乗り出した。FB開発室は白紙の状態から検討を続け、テニス、マリンスポーツなども新規事業候補に挙げた。しかし成長産業であり、自社の技術が使え、企業イメージからも逸脱しないなどの点から、最終的にゴルフ用品に的を絞ることにした。
【業界に新基準をもたらしたヘッドスピード理論】
FB開発室が注目したのはヘッドスピードだった。ヘッドスピードとは、ゴルフクラブのヘッドがインパクト直前の10センチの間を通過する速度(m/秒)のことで、これが速いほどボールの飛距離が伸びる。テストを繰り返した結果、ヘッドスピードの速さは必ずしも体格や身長に直結するものではないことが分かった。従って各人のヘッドスピードに応じて最も飛距離が出やすいように設計を変更すれば、体格や身長というあいまいな基準でなく、科学に基づいた精度の高いゴルフクラブ選びが可能になる。こう考えたFB開発室は、ゴルフ用品事業の柱にヘッドスピード理論を据えることにした。今日ヘッドスピードは、ゴルフクラブ選びの一般的な基準となっているが、その先駆けとなったのは横浜ゴムだった。
●番手ごとに設計を変更した500シリーズアイアン(1984年発売)
1980年代半ば、アイアンセットは同一のヘッドデザインで番手ごとにロフト角とシャフト長だけを変えたものが多かった。そうした中、番手ごとにヘッドとシャフトを設計し、やさしく打ちやすいアイアンとして発売したのが500(ゴヒャク)シリーズアイアン。ロングアイアンは打ちやすさと飛距離を追求しソール幅を広く、重量を軽く、一方ショートアイアンはコントロール性を重視し、ソール幅を狭く、クラブ重量を重くした。上級者、アベレージ、初級者向けにそれぞれ501、502、503 を発売した。
●PRGRの名を広めた長尺ドライバー μ-240(1986年発売)
ドライバーはシャフトが長いほどヘッドスピードが上がり飛距離が伸びるが、長くなれば振りにくくなりミート率が落ちる。当時、シャフト長は42.5から43インチが一般的とされた中、敢えて44インチの長尺ドライバーμ -240(ミュー・ニイヨンマル)を発売した。シャフトの軽量化(55グラム)、クラブの長さを感じさせない長めのグリップなどによって、長尺でも振りやすい設計とした。μ-240はアマチュアでもやさしく飛ばせるドライバーとして売上を伸ばし、PRGRの名が広く知られるきっかけとなった。
●「タラコ」の名称で大ヒットしたINTEST LX(1988年発売)
ロングアイアンは上級者だけのものと考えられていた時代、軽量、低重心、高弾道で170~200ヤード前後の距離をやさしく打てるロングアイアンINTEST LX(インテスト エルエックス)を発売した。INTEST LXはステンレスとカーボンの複合ヘッド構造を採用。ヘッド形状の印象からタラコと呼ばれ大ヒット商品となった。またこのロングアイアンを単品で販売するという画期的な発想も大ヒットに拍車をかけた。
●やさしく大きな飛びを実現したアイアン型ユーティリティZOOM(1997年発売)
ZOOM(ズーム)は、200ヤード以上を正確に狙いたい上級者、スコアアップを目指す中級者向けに開発した。1988年に発売したINTEST LXをさらに進化させ、チタンとタングステン合金の比重差を利用した低重心設計とキックポイントを最適化した長尺シャフトで、やさしく大きな飛びを実現した。
●PRGR最高売上を記録したDUOドライバー(2002年発売)
2000年代初め、ゴルフ業界では飛び性能に優れた高反発ドライバーの人気が高まった(2008年以降、競技での使用は禁止)。PRGRは高反発ドライバー向けに、インパクト時の衝撃をクラウンのたわみに変えて飛距離を伸ばすDUOデュオ)構造ヘッドを開発。2002年に同ヘッド構造を採用したプロゴルファー、上級者ゴルファー向けのTR DUO(ティーアール・デュオ)、アベレージゴルファー向けのTR-X DUO(ティーアール・エックス・デュオ)を発売した。2003 年には両クラブ合計で、PRGRドライバー最高の売上を記録した。
●反発係数を規制値ぎりぎりまで高めたRSドライバー(2016年発売)
2016年に発売したRS(アールエス)ドライバーは、クラウン部にたわみをもたせ、フェースの反発係数を規制値ぎりぎりまで高めたのが特徴。ドローが打ちやすいRSのほか、フェードが打ちやすいRS-F(アールエス・エフ)も発売した。
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